Vol.10 平尾成志(盆栽師)

Vol.10 平尾成志(盆栽師)

MY STANLEY vol.10 平尾成志

ロン毛でタンクトップの盆栽師。

盆栽。その興りは中国で、およそ1300年前まで遡る。そこから日本へと渡り、江戸時代後期に日本の盆栽文化は花開いた。右肩上がりに愛好家は増え続け、1981年には「日本盆栽協会」の会員はおよそ2万5000人に。現在は、その10分の1ほどの会員数になっている。

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敷居が高く、厳格なイメージがある盆栽。それに加えて「おじいちゃんたちの嗜みでしょ?」と思う人も少なくない。そうした盆栽像を、伝統を重んじながらも覆していく人がいる。今回登場する盆栽師・平尾成志さんだ。

すらっとしたスタイルで、ロン毛を一本に結い、夏に作業するときはタンクトップ。そんな見た目でありながら、盆栽の名門で培われた技術は一級品。ひとつひとつの所作も美しく、メディアにも度々登場し海外にも多くのファンを持つ。

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成勝園の中の一室。奥には平尾さんが手塩にかけて世話をしている盆栽が。

この日訪ねた「成勝園」は、平尾さんが営む盆栽園。2016年に別の場所で開園し、2023年3月から、この場所で営業をはじめた。「前の場所が、2019年に洪水の被害に遭っちゃって。そのリスクをなくすために、ここに引っ越してきたんです」

知人の力も借りながら、母屋も、外に広がる盆栽園も、そのほとんどを自らの手で完成させた。母屋には、自身の趣味であるビンテージのインテリアや、バーカウンターも完備されている。「だから去年は、盆栽道具よりも大工道具を持ってる時間のほうが長かったですね(笑)」。

人間と一緒で、盆栽も過保護ではダメ。

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平尾さんが「成勝園」にやってくる時間は早い。毎朝8時前には到着する。そして、掃除や盆栽の手入れをはじめる前にすることが、コーヒーを淹れること。

「コーヒーは毎朝必ず淹れています、スタンレーのコーヒーメーカーを使ってね。フィルターもいらないし、分解して洗えて、便利なんですよ」

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落としたコーヒーを入れるカップも、スタンレーのタンブラーを愛用している。使う色は決まってブランドのシグネチャーカラーであるハンマートーングリーン。それにもちゃんと、ワケがある。

「朝、コーヒーを入れたタンブラーを持って、外の掃除をしながら盆栽の状態を確認しに行くんです。そのときに、その辺に置いたりするんですけど、ハンマートーングリーンはすごく目立つ上に、盆栽の色味ともすごく馴染んでくれていいんですよ」

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たぶん、盆栽の知識がない人は、盆栽はずっと室内に置かれているものだと認識しているはず。けれど、それは客人をもてなすためであったり、鑑賞するために一時的に置いているだけ。基本的にはずっと屋外。盆栽もあくまで植物で、日光も、新鮮な空気も大切なのだ。

「それと盆栽っていうのは人間と一緒で、あまり過保護にしすぎると、いざ何かがあったときに耐性がなくてダメになっちゃうことがあるんです。だから風雨にも全然晒すし、台風のときも倒れそうなものは先に倒してあげて、ずっと外に置いています。あと、意外にも夕立が最高なんですよ。積乱雲の中に窒素が混ざっているから、夕立のあとは植物の緑がめちゃくちゃ濃くなって」

成勝園とスタンレーの蜜月。

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平尾さんとスタンレーの出会いは、およそ10年前。当時の平尾さんは、日本の文化庁からの依頼で世界各国を飛び回っていた。その活動の一環で訪れたアメリカの骨董屋で、初めてスタンレーを購入した。

「もちろん、もっと若いときから知っていたし、かっこええなとは思ってたんです。だけど、不思議と自分はまだこれ使っちゃいけないと感じて……、きっとその頃は似合わなかった気がします。そこから大人になって、サンフランシスコにある骨董屋で見つけたときは迷わず買っちゃいましたね。スタンレーが似合う大人になってたんだと思います(笑)」

MY STANLEY vol.10 平尾成志

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そこから年月を重ねるうちに、スタンレーのプロダクトが自然と増えていったという。いまはタンブラーをはじめ、クーラーボックスやウォータージャグ、ランチボックスなど、多くの製品を所有している。

「ランチボックスは本来の用途とは違うと思うんですけど、盆栽の道具入れにして使ってます。それまでは巻き物タイプだったんですけど、容量が限られていたし、収納も面倒だったんです。これに変えてからは本当に楽になりましたね。めちゃくちゃ好きです、コレ」

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そしてスタンレーのクーラーボックスやウォータージャグは、不定期で「成勝園」で開催されているイベントで活躍している。

「この前も休みの日にやったんですけど、関係者の方々を集めて、イベントというか昼からずっと酒を飲んでるんです(笑)。そのときはもうスタンレーが大活躍で、クーラーボックスには酒用の氷を入れて、ジャグにはチェイサー用の水を入れてね。どっちも本当に保冷力が高いし、特にジャグなんかはサイズ感もいいし、持ち運びも楽で重宝してますよ。あと、生ビールサーバーも完備してるんで、それをスタンレーのタンブラーに入れて。もうスタンレーだらけですよ(笑)」

なにより、平尾さんはお酒がめちゃくちゃ強い。昼の12時から人を招き入れ、最後の人が帰る24時まで、ずっと酒を飲み続けている。そんな酒豪も「ビールはスタンレーのマグで飲むのが一番。本当に飲み口が柔らかくて、うまいんです」と舌を巻く。

スタンレーも大事な道具。

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盆栽の美しさは、いわずもがな細部に宿る。その仕事は超細かい。

「この木は、ゆうに100年を超えてるんですけど、100年を超えてる木だったら本来はめちゃくちゃ大きいでしょ? なにも鉢に入ってるから大きくならないわけではなくて、太陽の方に伸びようとする木を制御しながら、人間が手を入れ、循環させることでいまのサイズに抑えているんです。強い枝を切ったり、葉をむしったり、樹皮を剥いたりしてね。だから、放置するとあっという間に伸びちゃうし、若々しい枝がピュっと伸びたりすると、せっかくの古色感も台無しになる。だからじっくり、1cmを時間をかけて伸ばすことが大事なんです。それと、たしかに人間の手は入っているんだけど、あくまで自然の営みであるかのように見せたい。切り口が綺麗すぎる枝なんかも、落雷で折れたかのように演出したりするんです」

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人為的ではあるけど、その気配を感じさせない。平尾さんが作る盆栽は本当に美しい。誰もが知る著名人たちも、わざわざ平尾さんを訪ね、盆栽の手入れをお願いするという。

そうした作業に欠かせない道具もまた、こだわりにこだわり抜かれたものが揃っている。

「盆栽の世界で有名なハサミが、MASAKUNIとその兄弟のブランドにあたる悦郎の2つ。で、僕が昔修行していた『加藤蔓青園』の3代目が亡くなる前に、いまも使っているゴールドのハサミをいただいたんです。それを作った人が悦郎のお父さんにあたる国治。これはもう、15年くらい使ってますね」

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平尾さんが持つ他の道具も、ハサミ同様に年季が入りながらも、メンテナンスが行き届き、いまもバリバリの現役。スタンレーもそのひとつで、タフに使いながらも、平尾さんならではの味わい深さになってきた。「そういう意味ではスタンレーも僕のなかでは大事な道具かもしれないですね」。

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この日は新製品についてもヒアリング。「カラーリングが絶妙」と平尾さん。

かつてはメディアに出演することも多かった平尾さんも、「成勝園」をこの場所に移転させてから次のフェーズへと向かっている。盆栽の伝道師として、さらに多くの人へ、その魅力を伝えていきたいという。

「前までは、パフォーマンスをしたり、メディアに出たり、店舗のディスプレイをしたりして生計を立てていて、盆栽を売ることはなかった。けど、ここに拠点を構えてからは、これまでよりも盆栽が欲しいと言って訪ねてくる人も増えたし、若い方もたくさん来てくれる。だから今後は、盆栽の愛好家さんたちを増やしていくための活動もそうだし、なによりここの盆栽園と共に成長していけるといいなと思ってます。敷居を下げるっていうと安っぽいですけど、別に盆栽を知らなくても、ここに来て盆栽がある空間の気持ちよさを知ってもらえたらなと。もちろんスタンレーと一緒にね(笑)」


平尾成志
ひらお・まさし。1981年生まれ、徳島県出身。京都産業大学在学中に訪れた東福寺は重森三玲作・方丈庭園に感銘を受け、日本文化の継承を志し、さいたま市盆栽町にある「加藤蔓青園」に弟子入り。2008年に独立し、その後はさまざまな国で盆栽のワークショップやパフォーマンスを行い、盆栽文化を通じた文化交流に励む。2016年には自身の盆栽園「成勝園」をさいたま市にオープンし、2023年に現在の場所へ移転。1000鉢以上の盆栽を販売している。
https://jp.bonsaihirao.net/

Photo:Hiroyuki Takenouchi
Text:Keisuke Kimura
Edit:Jun Nakada